本研究は、津波避難計画および研究の根幹に、従来の犠牲者数の軽減という視点に加えて、避難計画や戦略の失敗がもたらす「リグレット(後悔)感情」の軽減という視点を新たに導入し、その点を、従来のハザードマップとは異なる新たな表現形態(「リグレットマップ」)として可視化しようとするものである。これまでの津波避難研究では、犠牲者の軽減が第一原理として設定され、もちろんこれは当然だと言える。しかし、津波避難対策の困難は、単に、犠牲者数の軽減の困難に由来するのではない事実にも目を向ける必要がある。 

このことは、たとえば、津波避難原則の一つである「津波てんでんこ」をめぐる論争について考えてみれば、すぐに了解できる。「津波てんでんこ」は、「助けられたはずなのに、助けに行けなかった」、あるいは「逃げる(逃がす)べきだったのに、助けに行ってしまった(助けに行かせてしまった)」といった心理的葛藤をもたらしうる。本研究では、こうした感情を「リグレット(後悔)感情」と呼び、犠牲者数の軽減だけでなく(あるいは、それに加えて)、リグレットの軽減に資する課題分析や避難計画を検討すべきことを主張する。その上で、どのような社会的または地理的条件の下で、リグレットに直面する人の数は多くなるのか、またどのように解消しうるのかなど、多様で個別的な各現場で現実的な避難計画を検討する作業を支援する「リグレットマップ」を提案し、その作製方法を示す。

<関連文献>

大西正光, 矢守克也, 大門大朗, 柳澤航平:リグレット感情を考慮した津波避難ーリグレットマップ作製の試みー, 災害情報, Vol. 18, No. 1, pp. 59 – 70, 2020.

リグレットマップの一例