当研究室では、被災地と未災地の交流を通して、各地が取り組む津波防災の困難さやジレンマと、一方でそれと向き合うことで生まれる、まちの魅力の再発見を目指しています。そこで、2018年5月26日~27日に茨城県大洗町で第1回目の「被災地 大洗町―未災地 黒潮町 交流勉強会」を開催しました。
茨城県大洗町(おおあらいまち)は、東日本大震災の被災地です。震災後の大洗町は観光客の減少、出荷制限などにより、漁業や観光業の低迷が続いていました。その後、町役場や地域住民はこの事態を克服するために、SNSにより積極的に情報を発信したり、数多くのまちおこしのイベントを開催したりしてきました。中でも、アニメ『ガールズ&パンツァー』による町の一連の取り組みが最も大きな効果をあげました。同アニメが大洗町を舞台にしているため、テレビ放送以来、国内外のファンが「聖地巡礼」のため大洗町を訪問したからです。
他方、「未災地」高知県黒潮町では、東日本大震災が発生してから1年後の2012年3月31日、内閣府中央防災会議から発表された、南海トラフ地震の新想定の中で、最大震度7、最大津波高は日本最悪の34.4Mと伝えられました。「未災地」である黒潮町では、巨大想定を前に避難することをあきらめ、町で暮らすこと自体をあきらめる人があらわれ、「避難放棄者」、「震災前過疎」といった課題に直面しました。その後、同町は「防災に『も』強い町」、「犠牲者ゼロ」という独自の防災思想を掲げ、行政と地域住民が共同で巨大想定に対する避難計画を作成しました。
そのような異なる背景を持つ、それぞれの現場の当事者が、それぞれの言葉でお互いの課題と経験を議論できるアクションリサーチの場として、被災地と未災地の勉強交流会が、開かれました。
26日のシンポジウムでは、大洗文化センターで開催され、約60人が来場しました。27日の体験型ワークショップでは、大洗サンビーチの避難センターで開催され、約30人が参加しました。
黒潮町から、役場の前情報防災課長とNPO砂浜美術館理事長の2人、大学関係者10人、そして県外の防災に対する興味を持つ者10人が会場に来ました。大洗町からは、役場の職員、ライフセーバー、自主防災組織、消防団員、観光業者が参加しました。
大洗町の参加者は、黒潮町の「犠牲者ゼロ」から発展した町の防災活動の成果に対し、改めて黒潮町の目標とする防災思想の重要性を理解しました。そして、急速に進む高齢化や産業衰退による地域の過疎化、地域産業の衰退などの問題を抱える黒潮町にとっては、大洗町のアニメ聖地巡礼ブームや現地住民によるファンの受け入れ体制の構築による「聖地巡礼効果」の話が刺激となりました。
大洗町の住民は、缶詰工場(https://kuroshiocan.co.jp/)のような「防災の産業化」を高い興味を示しました。また、黒潮町が津波対策として、防潮堤ではなく避難タワーをつくったことに深く理解を示し、町民一人一人の津波避難カルテの取り組みをまねしたいと、お互いの学びが構築されました。